補助犬を受け入れる社会に

毎日新聞全国版平成29年4月11日朝刊掲載
公益財団法人 日本補助犬協会
代表理事 朴 善子

毎日新聞全国版平成29年4月11日朝刊記事紙面

 障害のある方に必要とされるパートナーが補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)だ。不当な差別をなくし、互いに認め合う共生社会を目指す障害者差別解消法が施行されて1年。
 法律は補助犬同伴での入店拒否やサービスの制限を不当な差別にあたると定めているが、まだ十分に知られていない。社会の補助犬受け入れ体制の確立を急ぐ必要がある。
 オーストラリアのシドニーを訪れた際、補助犬を連れた人とバスに乗車した。運転手はすぐに優先席を空けるようお願いするアナウンスを流し、乗客はどうぞと席を譲った。そのやりとりを日常の風景のように子供たちが見ていた。他者の困りごとに気づいたら気負わず声をかけて対応している。それが当たり前の社会なのだと印象深かった。
 補助犬について包括的に法制化した身体障害者補助犬法が施行されたのは15年前の2002年。公共の施設や交通機関、不特定多数が利用する一般の施設は、同伴する補助犬を拒んではならないと規定している。昨年4月施行の障害者差別解消法では同伴拒否を「差別」と踏み込んだ。法的にはアクセスフリーのはずだが、「受け入れ拒否」は絶えない。
 昨年、金沢市のタクシー運転手が盲導犬を連れた視覚障害者の乗車を「車内が汚れる」などの理由から拒否した。国土交通省はタクシー会社を行政処分するに至ったが、これは一例に過ぎない。駅、空港、商業施設、飲食店、病院、ホテルなども社員教育を見直してほしい。補助犬を「迷惑」とする意識の改革が重要だ。補助犬を育成するのはとても大変なことだ。1頭を育成するのに300~500万円かかる。育成団体の財政基盤がしっかりとしていないとスタッフの採用もままならない。都道府県の育成支援事業は十分とは言えず、多くを寄付金に頼っている。補助犬は福祉サービスとして障害者に無償貸与されるが、支援対象にならなければすべて育成団体の持ち出しになる。財政面での支援強化も必要だ。
 補助犬は1100頭余と少なく、しかもほとんどが盲導犬だ。介助犬や聴導犬の潜在的希望者がどれくらいいるか正確な数字はない。国はそうした事態を把握し、補助犬育成に向けた中長期的な政策を立案してほしい。補助犬と暮らす人が安心して社会生活を営むためには、補助犬が広く社会に認知され、国民が慣れ親しむような環境整備が求められる。
 20年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。先のリオ大会では「補助犬マーク」を表示し、補助犬同伴への配慮と啓発に努めた。東京大会でもマークの表示や大会ボランティアへの教育、暑さ対策、補助犬トイレの整備など取り組むべき課題は多い。
 東京の地下鉄の駅で昨年8月に起きた盲導犬使用者の転落死亡事故などを踏まえ、国交省は障害者への声かけなど具体的な行動を促す対策を始めた。補助犬同伴だからといって障害者が100%安全というわけではない。今後も補助犬への認識を深める啓発活動に積極的に取り組みたい。

ぱく・よしこ
補助犬の育成に長く携わる。2020年東京大会アクセシビリティ協議会作業部会委員。