日本で唯一3種類(盲導犬、介助犬、聴導犬)の補助犬を育成および認定できる団体です
安杖さんが介助犬とともに暮らすようになったのは平成18年。母親の手助けも必要なくなり本格的に一人で暮らし始めたときでした。同じマンションに暮らしている介助犬ユーザーの方から、日本補助犬協会のことを紹介されたことがきっかけです。
初代は、黒いラブラドールレトリバー、通称「黒ラブ」のフレザーくん。
現在は2代目、イエローラブのダンテくん。
初代介助犬フレザーくんとともに介助犬の実演活動する安杖さん
自立を意識しているだけに、日常のほとんどのことを自分でこなしてしまう安杖さん。だから、いつもダンテくんのお世話になりっぱなし、ということはないようです。
「それでも、一緒にいてくれることがものすごい安心感につながっています」
できることは自分一人でやるといいつも、障害者の一人暮らしです。健常者より様々なリスクは多い。車椅子から落ちたり、お風呂場で転んだり、ときとして自力で動けなくなるようなこともあります。そのようなとき、ダンテくんは安杖さんの指示にしたがって、携帯電話を安杖さんのものに運んできてくれます。ダンテくんがそばにいてくれるから、非常事態のときでも外部に連絡することがきるのです。
「いざというときに助けてくれる、という安心感があるからこそ、次また何かチャレンジしてみようという気持ちにもなりますよね」
そして、介助犬にはもうひとつ大きい役割があります。それが、自立支援。
安杖さんのように、後天的に障害が残るようになってしまった場合、今までできたことができなくなることから、身の回りの準備が煩わしくなったり、面倒くささを感じるようになったりして、そのまま引きこもってしまうケースが少なくないようです。さらに、不自由な身体となったことで「自分は必要とされていない」という気持ちによる塞ぎ込みなど、負のスパイラルが起こりがちだといいます。
「介助犬の世話をすることで、規則正しい生活となり、このような落ち込む気持ちに歯止めがかかります」と、安杖さん。
2代目ダンテくんと実演活動。お互いの信頼関係はバッチリです。
介助犬といえども、いわゆる飼い犬と同じ。餌をあげたり、散歩したり、という世話が必要です。実際に安杖さんも1日1回は必ず散歩に出かけ、トレイの始末、餌やりと、ダンテくんへの世話は欠かすことはありません。
「『世話をする』という行為が、実は何よりも大切で、これが能動的な心の動きにつながっていきます」
障害を持つと「誰かに支えてもらえないと生きていきない」という受動的な気持ちについなりがち。でも、介助犬の世話をすることが、障害持っていてもやれることはある、といった自発的な気持ちへの誘いとなり自立していく気持ちを支援してくのです、と安杖さんは語ります。
この能動的になる気持ちは、介助犬とのパートナーシップでも感じることもあるようです。
「彼ら(介助犬)は、私のことを障害者として見ていないんですよね」
それは、初代フレザーくんを連れて、秋田の実家に帰ったときのことでした。
とてもひどい雷雨の日がありました。
フレザーくん、実は雷が大嫌い。
雷が鳴るたびに、フレザーくんは怖がりあたりを走りまわったり、オドオドしたり、ずっと怖がっていました。ついには、あまりの怖さに安杖さんに飛びきました。
「小さな子どもでも車椅子に乗っている人を見たら、弱者のイメージを持つものなんですよね。だから、誰かに頼るとしたら、子どもなどは間違いなく自分ではなく健常者のほうに行くでしょう」
このとき、安杖さんのほかにご両親がいました。でも、フレザーくんが助けを求めて飛びついた先は、ご両親ではなく障害を持った安杖さんのほうでした。
「私に守ってほしくて、頼って、飛びついてきたんですよね。このときフレザーの自分に対する『信頼』と『愛情』をものすごく感じましたし、『自信』にもつながりました。この子を守ってあげられるのは自分だけなんだ、って」
障害を持っていようがいまいが関係ない。いつもお世話してくれる安杖さんだからこそ身を委ねる。信頼する。フレザーくんの愛情、パートナーシップを感じた瞬間でした。
「介助犬は、パートナーとして、もうなくてはならない存在です」
2代目パートナー ダンテくんと